伊勢物語朗読「第九段」その三
猶行き行きて、武蔵の国と下つ総の国との中にいと大きなる河あり。それをすみだ河といふ。
その河のほとりにむれゐて思ひやれば、限りなく遠くも来にけるかなとわびあへるに、渡守、
「はや舟に乗れ、日も暮れぬ」といふに、乗りて渡らむとするに、皆人物わびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。
さる折しも、白き鳥の嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚をくふ。京には見えぬ鳥なれば、皆人見知らず。
渡守に問ひければ、「これなむ都鳥」といふをききて、
「名にし負はばいざこととはむ都鳥 わが思ふ人はありやなしやと」
とよめりければ、舟こぞりて泣きにけり。
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